「スローイズ・ビューティフル」 〜遅さとしての文化〜
研修指導員 相澤 茂


 ゆっくりとした時間の流れを感じるということはお年寄りにとって、そして若い人にとっても大切なことです。

 世の中が急ぎすぎて、何か大切なことを見ないようにしているということを感じることが多くあります。例えば、目の前の人とゆっくりと時間を気にせずに食事をして、美味しさをわかちあうという文化を、私たちは忘れようとしているのではないでしょうか。忙しい人々のために、ファースト・フードが街には溢れています。冷凍食品・カップラーメン・コンビニの弁当・ファーストフードチェーン店の数々。これだけ食事の時間を節約して、便利な世の中になっても誰もが忙しそうにしているように見えます。

<本文P102より抜粋>
 【ある調査によると90年代のアメリカ人の就労者は70年代に比べて年平均142時間余計に働いているという。一方アメリカ人の親が子どもと遊ぶ時間は週平均40分にすぎない。

中略

  「こうしちゃいられない」 が我らが時代の合い言葉。これを呟きながら、ぼくたちはいつも自分の日常にまとわりついている無駄を呪い、また自分のうちの非効率を責める。「時間がかかる」 ことの中でも、直接生産や金に結びついていないように見えるものは「雑事」とか「雑用」とか「野暮用」とかと呼ばれる。家事全般がそうだ。それは 「できることなら無しですませたい」 厄介事であり、それに携わることは一種の無駄だと見なされ、それに携わる者は損でもしたように感じながら、「こうしちゃいられない」と呟くだろう。掃除、洗濯どころか今では、家族と過ごすことさえ「雑用」と見られかねない。】 

 2006年、英レスター大学は、世界178カ国の平均寿命や経済状況、教育レベルなどに関する調査を行い、国民の幸福度のランキングを行いました。医療や教育の制度、一人当たりの国内総生産(GDP)が高い国の住民が「幸せ」を感じる傾向が強いという分析もなされています。1位は福祉の国デンマーク、2位はスイス、3位はオーストリア、アメリカは23位、日本は90位に位置づけられています。(ちなみに、GDPだけで言えば1位はアメリカ、2位は日本ですが。)

 この順位から考えると、ゆっくりと人と人が向き合って、時間を大切にすごす価値観がある国が幸福なのでは? と思えます。どれだけ発展したら、私たちは幸せになれるのでしょうか?「いつか」 幸せになるのではなく、今、目の前の人とゆっくりと幸せを感じることが私たちにはできるはずです。「スローライフ」 を提案した著者・辻信一さんはこう語る。

 「スローとはひとことで言えばつながり。水や木や土や自然、そしてそこで暮らす人々の、いのちのつながりをはぐくむことです。人を思いやるとか、人を育てる、人を愛す。共に生きるというのはとても時間のかかること。そんなことみんな知ってるはずなのに。文化的時間や生物学的な時間は本来がスローなものです。スローダウンして豊かなつながりを取り戻したい」 

 もっとスローに。そこに進むことが、これからの私たちの進む道だと思える本です。

■スローイズ・ビューティフル 遅さとしての文化 平凡社ライブラリー501
■著者 辻 信一
■出版社 株式会社 平凡社
■価格 \1000